【臨床検査技師国家試験対策】血糖(グルコース)について

どうもnekoshanです。今回はグルコースをメインに多分野からまとめたいと思います。

検査はもちろん一般人にもよく知られていますね。故に学ぶところは多いと思います。

順に読んでいくことで知識が身に付くと思います。是非、国家試験の役に立ててもらえればと思います。

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生化学の観点から

グルコースの化学的構造

まずは化学構造についてお伝えしましょう。グルコースには直鎖状と環状合わせて3種類の描き方があります。

左から Fisher(フィッシャー)の式の直鎖状、Haworth(ハース)の式や Reeves(リーブス)の式のα体のグルコースとして表すことができます。

直鎖状構造において重要なポイントは、アルデヒド基(-CHO)の炭素から数えて5つめの側鎖のヒドロキシ(-OH)基が右側にあることです。

実は、水溶液中ではそのほとんどが D 体の環状構造(D-グルコース)で存在しています。

さらに D-グルコースは α 型と β 型の 2 種類の立体的な配置が異なる鏡像異性体が存在し、α 型⇔直鎖状⇔ β 型構造と行ったり来たりしながら平衡状態を保っています。

α型とβ型をどう区別するかというと、1番目の炭素に付くヒドロキシ基が下側にあるのがα型で、上側にあるのがβ型です。

寄り道

グルコースの構造内にアルデヒド基(-CHO)が存在しているということは、グルコースはアルドースに分類できるということです。

実は、血液中のグルコースの約63%程を占めているのは、β-D-グルコースなんです。α-D-グルコースは約37%、直鎖状は1%以下です。

なぜβ-D-グルコースが6割かというと、この状態が空間的に安定するからなんですね。

ちなみに β-D-グルコース は一般検査のグルコース測定方法に使われますので覚えておきましょう。

空腹時グルコース(空腹時血糖値)の基準値

空腹時グルコースの基準値は 80~110 mg/dL です。食後の基準値は 110~140 mg/dL ですよ。

100~110 mg/dL は正常範囲ですが、正常高値扱いとなります。

空腹時血糖が 50 mg/dL 以下になると低血糖となります。

空腹時血糖が 126 mg/dL 以上だと高血糖、食後の血糖値が 140 mg/dL を超えると食後高血糖と呼ばれます。

基準値以上または上昇で考えられる疾患や病態と、基準値以下または低下で考えられる疾患や病態を下記表にまとめました。

また薬剤も検査値への影響がありますので、少しですが代表的なものを下記表にまとめます。他にもありますのでこれが全てではありません。

なぜこの疾患や薬で値が変動するのかを考えるとさらに理解が深まると思います。

空腹時グルコース(空腹時血糖値)の異常値

110~125 mg/dL は糖尿病境界型、126 mg/dL 以上は糖尿病型、75g OGTT 2時間値で200 mg/dL 以上は糖尿病型です。

糖尿病の診断はグルコースだけでは決まらないことは覚えておきましょう。詳しくは別記事で紹介予定です。それまでは教科書や参考書で勉強してください。

グルコースの代謝

解糖系(別名:エムデンマイヤーホフ経路)と呼ばれる経路をたどり、グルコースをピルビン酸に変換し、TCA回路と電子伝達系にてエネルギーとしてのATPを産生していきます。

解糖系図のダウンロードはこちらから。是非カラーで印刷して下さいね。

解糖系の図を見ると酸素が必要な酵素はひとつもありません。つまり嫌気的な反応だということです。

  • 解糖系において一つのグルコースから ATP は 2 個作られる
  • 解糖系と糖新生における律速酵素は3つずつ。酵素名も覚えておきましょう。

PKは可逆的な酵素で充分役割が果たせそうなのに、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼが律速酵素として存在するのは不思議ですね。

生化学検査でのグルコース測定方法

検査室で使われるのは基本的に酵素法であるヘキソキナーゼ(HK)法です。

測定系を記した下記の画像をご覧ください。

HK を用いて D-グルコースと ATP を D-グルコース6リン酸へリン酸化します。続いて D-グルコース6リン酸に対して NADP₊ と D-グルコース6リン酸脱水素酵素(G6PDH)を用いて NADPH とし、波長 340 nm での吸光度上昇としてグルコースを間接的に検出します。

  • 一つのグルコースにつき一つの NADPH ができる。
  • HK は α 型と β 型の両方の異性体に作用できる。効率的ではあるが緩い酵素ということです。

また、NADH や NADPH を使った測定法へつなげるのは生化学測定法での常套手段です。

下記図に吸光度の増減で検出する項目の一覧を参考までに記しておきます。覚えておくと良いと思います。画像のダウンロードはこちらから。

グルコースが関わる測定項目

HbA1cやグルコアルブミン、1,5-アンヒドログリシトールなどが代表的ですが、糖自体は様々なタンパク質と非特異的に結合しています。

詳しくは別記事で紹介したいと思います。只今作成中です。

一般検査の観点から

一般検査でのグルコースは、尿糖や髄液糖がメインとなります。

尿糖

尿試験紙法(GOD-POD:グルコースオキシダーゼ-ペルオキシダーゼ法)

尿中グルコースを測定するのですが、前述の通り α 型と β 型の 2 種類が平衡状態を保っています。

グルコースを β 型に固定してから測定系に入りますが、下記図に測定系を記しましたので参照して下さい。

β 型に固定する酵素をムタロターゼと言います。次に β-D-グルコースを GOD によって過酸化水素水が生じます。その過酸化水素水に POD が作用し分解され、生じた活性酸素により色原体が酸化されて発色するという原理です。

グルコース濃度が高ければ高いほど色は濃くなることがわかりますね。

定性反応の基準値

基準値は検出されないこと、つまりマイナス(ー)が基準です。

1+になると尿糖が 100 mg/dL あることになります。つまり腎臓の近位尿細管での再吸収可能な閾値を超えてしまったか、近位尿細管の再吸収能力が低下してしまったため尿に漏れていることが考えられます。

高値の場合

高血糖、糖尿病、運動、ストレス、多発性骨髄腫、Wilson病が考えられます。

偽陽性と偽陰性

偽陽性は次亜塩素酸などの酸化剤やpH4以下の酸性尿で起こります。アスコルビン酸(ビタミンC)によって低値化または偽陰性化します。

グルコースの他にも、アスコルビン酸により低値化または偽陰性化する検査項目があります。

直接ビリルビン、潜血反応、亜硝酸塩です。この際ですので覚えておきましょう。ビリグルさんは繊細な人なんですね。ビリグル繊細。ビリ グル 繊 細。

ベネディクト(Benedict)法(還元法)

グルコースを含めた還元糖(水溶液中で開環した時にアルデヒド基またはケトン基を形成する糖のこと)を検出できる。

グルコースに特異的な検査法ではないことがポイントです。

アルカリ性水溶液中の水酸化銅が還元され、酸化銅として黄色~赤色の沈殿が現れれば還元糖が検体中にあるとわかります。糖自身は酸化されアルドン酸やアルダル酸になります。

検出感度は試験紙法と同じで 100 mg/dL 程度です。

偽陽性

ベネディクト法ではアスコルビン酸などの還元性物質が多く含まれていると偽陽性を示します。

その他尿糖測定法

二―ランデル(Nylander)法(還元法)

アルカリ性の条件下で次硝酸ビスマスを反応させる方法で、 還元糖により黒褐色の金属のビスマスとなり、還元糖自身はアルドン酸やアルダル酸になります。

検出感度は 50 mg/dL 以上とされています。

髄液糖

髄液糖は文字通り、髄液中に含まれるグルコースです。

基準値

正常髄液糖の基準値は 60 ~ 80 mg/dL です。正常血糖値は 80 ~ 110 mg/dL ですから約 80 %に相当します。

変動要因

髄膜炎では値が変動します。髄液糖は髄膜炎の原因が何に由来するかで変動の仕方が変わりますので、覚えておきましょう。

下記図の髄液タンパクや髄圧、細胞数などと共に参考にしてください。画像のダウンロードはこちらから。

※【Lym】はリンパ球、【Neut】は好中球。N.D.は文献データなし。
〇?は細胞数が増えることから日光微塵はあり得るのではという推測ですが科学的根拠はありません。

病理の観点から

グルコースではないが、グルコースに関係すると言えばPAS反応です。

PAS反応の原理は、グリコーゲンなどの多糖類が過ヨウ素酸により酸化されてアルデヒド基を生じ、これにシッフ試薬を作用させることで呈色します。呈色の色は赤~赤紫色です。

もう少し細かくお伝えしようと思います。シッフ試薬を作用させることでシッフ試薬(無色)に多糖類の糖鎖が結合してキノイド型色素になり呈色する原理です。

ベネディクト法と同じように還元性を持つアルデヒド基を作用点としていますし、シッフ試薬にはパラローズアニリンという塩基性フクシンが含まれていますのでアルカリ性という点では似ていますね。関連させて覚えて頂ければと思います。

さらに、α-アミラーゼ(EC 1)消化法グリコーゲンを加水分解するとオリゴ糖や麦芽糖などの短い鎖になります。二糖類の結合様式については現在記事を作成中です。

染色工程の蒸留水水洗で蒸留水中に溶けだしたオリゴ糖や麦芽糖は流されてしまい、次のシッフ試薬の染色工程では染色対象がいないため染まりません。

逆に言うと対象としてPAS反応で染まったのはグリコーゲンだという逆説的な結果を得られます。

グリコーゲンについては別記事でお伝えしたいと思います。只今作成中です。

生理機能の観点から

グルコースというか糖尿病に関することがメインになります。

グルコース単体で関連する生理検査は私は知りません。詳しくは糖尿病の国家試験対策記事をご覧ください。もしあれば教えて頂けると幸いです。

血液の観点から

Multiple Myeloma:MM(多発性骨髄腫)

尿試験紙で高値の場合に考えられる疾患でお伝えしましたが、グルコースに間接的にではありますが関わりますのでお伝えしておきます。

形質細胞の腫瘍性増殖するとともに形質細胞から M 蛋白が産生される疾患ですね。

ベンスジョーンズ蛋白を含め、免疫グロブリンを構成している軽鎖(κ鎖 or λ鎖)が糸球体で濾過、近位尿細管で再吸収され(この際、近位尿細管を障害)、過剰分は遠位尿細管に運ばれてここで円柱構造物を形成、これによって尿細管閉塞が起こり、腎障害が発症します。

多発性骨髄腫 Ⅰ.臨床症状・検査・診断・病期  http://www.med.osaka-cu.ac.jp/labmed/page086.html

完璧で理論的な解ではありませんが、上記のように異常なタンパク質(M蛋白)が近位尿細管で再吸収される際に障害され、グルコースが再吸収されにくくなるようですね。

血液像で形質細胞がどのような形態なのかは覚えておきましょう。核の偏在は?細胞質はどんな色か?クロマチンは濃いのか?などですね。詳しくは文献やアトラスなどを見て覚えましょう。

遺伝子の観点から

糖原病

糖原とはグリコーゲンのことで、肝臓や骨格筋、心臓、腎臓で貯蔵され必要に応じて利用されています。

ところがグルコース6リン酸脱水素酵素(G6PDH)の欠損によりグリコーゲンを分解できずグルコースを利用できなくなってしまう病気です。

G6PDH 遺伝子はX染色体上に存在することからX染色体連鎖劣性遺伝疾患となります。

糖原病の病型はいくつもあり、常染色体連鎖劣性遺伝疾患となることもありますが、日本人においてよく見られる変異がG6PDH欠損ですから、X染色体連鎖劣性遺伝疾患を覚えておけば良いでしょう。

グルコースの代謝図で糖原病を記載していますので、目を通しておきましょう。また、染色体異常の一覧表をこちらからダウンロードしてご活用ください。

欄内の新生児マススクリーニングと書いてある部分は、新生児マススクリーニング検査の適応になっている先天性疾患のことを表します。

糖原病の特徴的な症状

主に肝型ですが低血糖、肝腫大があります。また高脂血症や高尿酸血症、乳酸アシドーシスなどがあります。

高脂血症や高尿酸血症、乳酸アシドーシスは解新生が傷害され、グルコースが供給されないために別の代謝経路が働いてパンク状態になった現れです。

糖新生障害→乳酸(不溶性)蓄積→乳酸アシドーシスに陥るということですね。

発達遅延、てんかんなどの二次的な合併症も現れていきます。

糖原病ー検査値の異常

血糖検査、脂質検査、空腹時乳酸値、75g OGTTを行います。

各検査値の正常範囲も覚えておきましょう。検査値一覧はこちらから。

Wilson(ウィルソン)病

常染色体劣性遺伝で遺伝する胆汁中への銅排泄障害による先天性銅過剰症です。

全臓器の組織中に銅が沈着し組織傷害を起こします。

寄り道

Menkes(メンケス)病と混同しないように気を付けましょう。

Menkes病はX染色体劣性遺伝で起こる疾患です。基本的には男児に発症します。

Menkes病は、銅輸送タンパク酵素の異常で銅が体内に吸収できずに銅欠乏状態となり、銅を利用する様々な代謝に影響を与えます。

つまり銅代謝障害なのです。

主に銅は、亜鉛と共に神経細胞のシナプスにおける神経伝達物質の合成や神経情報の伝達などに重要な役割を担っています1)。

Wilson 病・・・銅の排泄障害→銅過剰
Menkes病・・・銅の代謝障害→銅欠乏

余力があれば覚えておきましょう。

Wilson病の特徴的な症状

一番特徴的な症状はKayser-Fleisher(カイザー・フライシャー)角膜輪です。

これは角膜と虹彩の辺縁に銅が沈着し、濃い緑色に色が変化します。眼底検査の勉強にもなりますので、目の構造は一度見ておくと良いでしょう。

また、肝障害、手指の振戦やうつ~歩行・構音傷害、統合失調症様の精神神経症状などが見られます。

Kayser-Fleisher角膜輪はとても有名ですので、Wilson病とセットで覚えておきましょう。

国家試験対策記事でも眼底検査と糖尿病関連で取り上げるつもりです。

Wilson病ー検査値の異常

肝臓に存在する銅輸送膜貫通タンパクをコードするATP7B遺伝子の座位する染色体の両方のアレル(=対立遺伝子とも言います)に変異があります。

セルロプラスミンは銅輸送タンパク質ですが、銅を輸送する膜貫通タンパクに異常があるため、血清セルロプラスミンへの銅の供給ができません。そのため肝臓に銅が蓄積し、肝障害を起こします。基本的に全身の臓器に沈着します2)。

もちろん血清銅と血清セルロプラスミンの低下が起こります。銅が血管内に少ないため、血清セルロプラスミンは増える必要がなく量は減ります。

銅の生理的代謝を担うのは胆汁ですが、ATP7B遺伝子異常により胆汁への排泄ができないため、尿中への銅排泄量が増加します。

寄り道

血管内のセルロプラスミン非結合銅は、それだけで細胞毒性を持ちます。

胃、十二指腸、空腸からの銅の吸収を担うタンパク質はATP7Aタンパクです。

ATP7B遺伝子は13番染色体長腕14.3 ( 13q14.3 ) に座位していますよ。

Wilson 病では稀ですが、直接クームス陰性の溶血性貧血です。

なぜ溶血が起きるかと言うと、ヘモグロビンを作るために必要なのは鉄ですが、その鉄をヘモグロビンに運ぶには銅と結合したセルロプラスミンが必要なのです。

そのためセルロプラスミンがないとヘモグロビンは合成できません。ヘモグロビン異常とみなされ、赤血球は壊され溶血を起こします。

採血の観点から

グルコースまたは血糖測定に用いられる採血管にはフッ化ナトリウム(NaF)とEDTA-2Naが添加させています。

なぜNaFなのかというと解糖系図中のエノラーゼを阻害し、グルコースが赤血球内の解糖系で代謝されることを防げます。

実際、全血を2時間放置すると8 mg/dL 程低値になることが分かっています。

ヘキソキナーゼ(以下、HK)を阻害できれば正確なグルコースを測定できると思いますよね?ただし、測定系にHK法を用いているため、HKを阻害することはできないのです。

できるだけ影響を少なくするために、予めNaFを採血管に入れておき解糖を阻止するとともに、検体到着後すぐに遠心分離して、血球と血漿に分けてあげれば、赤血球内へのグルコースの取り込みも減らすことができます。

赤血球へのグルコースの取り込みは、GLUT1という膜タンパク受容体が担い、取り込みにインスリンを必要としません。

まとめ

いかがでしたでしょうか、国家試験の役に立てたなら幸いです。

日常的な業務(ルーチン)は機械やAIに置き換わりつつあります。装置に検体をかけるだけなら小学生でもできますよ。

検査技師ができることは、正しい結果判定と新しい検査法や診断薬を生み出す力です。

段々と高齢化の中で訪問検査が増えるかもしれませんね。さらには新しい検査法の研究開発がメインにな丁くかもしれません。

国家試験対策勉強はもちろんですが、論理的な思考を身につけることを心がけましょう。勉強しながら培うことは可能ですよ。

おさらいとして問題を一つ。

β-D-グルコースのみを基質とする酵素はどれか。2つ選んでみましょう。

1.グルコースデヒドロゲナーゼ
2.グルコースオキシダーゼ
3.ピラノースオキシダーゼ
4.ムタロターゼ
5.ヘキソキナーゼ

解答は下へスクロール↓↓

グルコースのC1のOH基が上向きであるのが β-D-グルコースであり、したがって正解は1 と2です 。

酵素によっては、α型のみ、β型のみ、両方に反応する酵素があります。

3 と5 は両方。4 は α 型に働きます(C1のOH基が下向き)。

項目のリクエストがあれば作成致します。

では。

参考文献

  1. 武蔵野大学薬学部生命分析化学研究室, 川原正博, 根岸みどり, 田中健一郎, 脳血管性認知症発症における亜鉛と銅のクロストーク, 56 (14), 亜鉛栄養治療 9 巻 2 号 2019
  2. 銅代謝異常の臨床:先天性銅代謝異常症Wilson病の臨床研究, Journal of Japanese Biochemical Society 90(3): 306-310 (2018)
  3. The Wilson disease gene is a copper transporting ATPase with homology to the Menkes disease gene, December 1993, Nature Genetics 5(4):344-350
  4. 病気が分かる検査値ガイド, 金原出版株式会社, pp.86-96, (2016)
  5. 標準臨床検査学 臨床化学,編集 前田真人, 医学書院
  6. 最新臨床検査学講座 一般検査学, 医歯薬出版株式会社, 三村邦裕 宿谷賢一,pp22-23, pp104-105
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